2008-02-12 Tue [ マーティン・ガードナー ]
by 日詰明男
今アトランタにいます。
2ヶ月間滞在の予定。
ここの大富豪に招かれ、いわゆるアーティスト・イン・レジデンスとして制作を始めています。
ホストの敷地にさまざまな「数学遺産」をこしらえようという試みです。
作品は3月下旬、数学者を中心に集まる国際会議へ向けて披露されます。
ホストのご主人は数学通、奥さんは日本通というカップルで、そうした両者のアンビバレンツな要請から依頼を受けた次第。
ある意味、僕にとって願っても無い機会です。
アトランタは内陸ゆえ、寒くなったり、暑くなったりめまぐるしいです。
ここも以前は広大な森林だったのでしょう。
ところどころその片鱗が残っています。
針葉樹と広葉樹の高木が同じような枝ぶりで住み分けしており、この辺の植生を特徴付けています。
夕映えを背景にした木立のシルエットがとても美しい。
アトランタ着陸直前の機内から見たところ、住宅開発が非常に盛んであることが見て取れました。
アメリカ経済はいまだ堅調であることがうかがわれます。
森林を切り込むように袋小路の車道がS字曲線を描き、それに沿って葡萄の房のように分譲住宅が建ち並んでいる。住宅密度に多少の差はあれ、基本的にこの路線です。どの家も見事なほど玄関の前に芝生が確保され、アメリカ人にとってこの芝生はトイレ以上に必要不可欠なのではないだろうかと思ってしまいます。
上空から眺めるだけで、訪れずとも町並みが目に浮かびます。
紋切り型とはいえ、日本人から見れば大変豪華な建売住宅ばかりです。
森林はこうしたかたちで侵食されていますが、日本のそれよりはましでしょう。
癌にたとえるなら潜伏性か、進行性のちがいでしょうか。
アトランタ郊外の開発では、極力目立たないように森林が伐採されていますから、居住者は、上空から見下ろさない限り、まだ全然森林は破壊されていないという錯覚の中で静かに生活することができるでしょう。
アトランタは都市として見るべきものはほとんどありません。
コカコーラ本社があるので、世界中からの富が集まってきている感じです。
府中競馬場で潤う府中市民みたいなものですね。
コカコーラは現象的に見れば三大宗教をしのぐ最も成功した宗教だといえるでしょう。
これはもう途方も無い集金システムです。
いわゆるアメリカ道。
今寄宿している家はコカコーラの社長が以前住んでいたものらしい。
桂離宮を意識した家です。
テレビ番組は数え切れないほどあり、よく採算が取れるものだと思います。
その中で唯一NASA TVを見るのだけがアメリカへ来たときの楽しみかもしれない。
この放送は1997年にアメリカ滞在したとき既に放送されていて、宇宙から見た地球を延々と流していました。あの時もたいそう感心したものですが、今やますます内容は充実しているようです。
今回は幸運にもスペース・シャトルが宇宙ステーションとドッキングする時期に当たりました。
これを書いている今も二人の宇宙飛行士が船外活動する様子を延々とライブ中継しています。
船内にも監視カメラがあり、全米に流れます。乗組員にプライバシーはありません。
船外活動する宇宙飛行士の姿をさまざまな方向からカメラがとらえています。
その背景には曲がった地平線を描く巨大な青い地球がぐるぐると回転している。
ブラウン管を通しても空間のずばぬけた透明度が十分に感じられます。
なんという光の鋭さ!なんという輪郭!
文字通り、身を焦がすほど透明で無垢な空間がそこにある。
その透明感はやはりダイヤモンドのそれを連想しますね。
「つまりこの宇宙空間は安定性においてダイヤモンドよ
りもはるかに硬いのである。途方もなくカッキンカッキ
ンに結晶している。その硬い媒質を電磁波は伝播してゆ
く。私ならダイヤモンドより硬いこの空間をありがたく
買うだろう。空間はタダであるが。」
(空想数学小説「ジャガイモ宇宙の大航海時代」より)
我慢できず、アトランティスから見た地球をTV画面を経由して激写してしまいました。
アメリカ人の税金で飛ばしているロケットたちですから、NASAは十分に国民に還元してますね。
それにくらべて日本の宇宙開発は成果を小出しにしているとしか感じられないのは僕だけでしょうか。
大学の情報公開も然り。
僕は以前、とある国立研究機関にどうしても知りたいデータを公開してもらうように丁重な手紙をしたためたことがありましたが、返事はありませんでした。
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