2007-09-11 Tue [ コスタリカ ]
by 日詰明男
この村に来てから毎日、夕刻になると「たたけたけ(フィボナッチ・ケチャック)」のワークショップをしている。もうかれこれ2週間になるだろうか。
もちろんここでは「たたけたけ」ではなく黒板には「TTKTK」と書き、「ててかてか」と発音させている。
最初のうちは、大人も子供も区別なく、まったくリズムが身体に入らないので途方にくれた。
日本ならば、30分もあれば基本的リズムは大抵の人がマスターしてしまうものだが、ここではもっとも単純な「たたけたけ」の5拍のリズムでさえ教えることが困難である。
これは単に教え方だけの問題ではないだろう。
この目に見えない障壁はなんだろうと私はずっと考えながらワークショップを続けた。
コスタリカの人はみんな音楽が好きだし、サルサを踊り、地元のお祭りのお囃子だと、みな太鼓を機関銃のように正確に叩く。リズム感はとてもいいはずである。
おそらく、音楽はすべて口伝で、楽譜を見る習慣というものがないのではないだろうか。
おしなべて「読み」と「打ち」がなかなか一致しないのである。
いっぽう日本人だって楽譜を読む習慣が決してあるとはいえない。
日本の場合、やはり短歌や俳句に親しむ文化的背景は大きいと思う。
日本語を読むときに、私たちは無意識に打楽器奏者が楽譜を読む時と同じ脳内変換をしているに違いない。
いわば日本語は「打楽器的な言語」といえるのではないだろうか。
それに対して、他の多くの言語は笛やバイオリンなどの「旋律的な言語」だと言える。
そういえば以前、ある日本人がフィボナッチ・ケチャックのワークショップのあと、次のような感想を言ったことを思い出した。
基本的リズム「ててかてか」は5拍で循環するが、厳密には2.5拍子と定義される。
ジャズの名曲「テイク・ファイブ」はまさしくこのリズムで書かれている。
その人は、キーボードでテイク・ファイブを流暢に弾けるそうだが、フィボナッチ・ケチャックの「たたけたけ」がなかなかうまく叩けなかったと告白した。
ちなみにその人はドイツで生まれたそうである。
さて、コスタリカでのフィボナッチ・ケチャックのその後の経過であるが、地元の人は戸惑いながらも皆おもしろがって、結構ついてきてくれた。
さながら放課後学校のような様相を呈した。
今やこの村では「ててかてか」が小さなブームである。
あきらめず、たっぷりと時間をかけただけあって、最近ようやく演奏らしい演奏ができるようになってきた。
中でも特に安定した演奏ができ、自己相似原理の完全な理解にまで至ったのは11歳の女の子と男の子、15歳の男子、大人はわずか一人である。
人数は少ないが確実にフィボナッチ・ケチャックの種子をコスタリカに植えられたと思う。
彼らは僕がここを去っても、この音楽を広げていってくれるだろう。
昨日はテレビ局の取材もあった。
数十年後の展開が楽しみである。
|| 22:18 | comments (x) | trackback (x) | △ ||