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山茶花茶
by 日詰明男
京都の山口和子さんから「岩茶のちから」(左能典代著)という本を紹介していただいた。
中国福建省の奥深く、武夷山の岩山に生えるチャノキから取れる貴重なお茶の話。
読んでいて、群馬県の裏妙義の谷間に人知れず立つチャノキをイメージした。
妙義山は日本の仙人こと修験者たちが開いた山。彼らのことだから手の届きにくい岩盤にあえてチャノキを植え、それを茶にして飲んでいても不思議はない。きっとある。今度探しに行ってみよう。

中国の岩茶は樹齢数百年の巨木だという。樹の周囲には様々な動植物が共生し、あるがままの状態で芳しい新芽を毎年付けると言う。
そんな遠い異国の伝説のような話を庭で読みながら、今年初めての自作紅茶をすすった。

今はちょうど新茶真っ盛りの季節である。
昼の光がさすと、辺り一面の茶畑から、うっとりするような香りが漂ってくる。

私は昨年静岡県の茶畑の真ん中にある家に引っ越した。そこに竹の茶室を建てたことは以前このブログに書いたとおりである。
昨年の5月から10月の末まで、在宅中はどんなにくそ忙しくても自分で飲む分のお茶を摘み、いろいろな方法で製茶した。通算でも軽く100回は製茶したと思う。もちろん手摘み手揉みである。
私の実感としては、どのような製法でもそれなりにお茶はおいしい飲み物になる。
特にお気に入りは「生紅茶」である。
全工程、手作業のみで、火や金属をまったく使わない。
乾燥もさせないで直ちに飲む。
いわばお茶のお刺身。
漁師が船の上で海水を味付けに刺身を食うようなものである。
「いい酒は旅をしない」といわれるように、旅をしないお茶があっていい。
このお茶はサリチル酸メチルの香りが漂い、ほのかな清涼感がある。
ほんのりした甘みもあり、三煎、四煎もそれなりにおいしい。

そんなお茶を飲みながら「岩茶のちから」を読んでいたわけだが、ふと目の前にある樹齢やはり100年以上はあろうかと思われる山茶花の大木が岩茶の巨木に重なって見えた。
見るとその山茶花にも新芽がおびただしく伸びている。
これは製茶しない手はない。

いつもの紅茶の要領で萎凋、揉捻、発酵という工程を踏んだ。
揉捻の段階で、特徴的な香りが立ち上がってきた。
この香りには聞き覚えがある。。
しばらくしてようやく思いあたった。それは丁子の香りである。
丁子はフトモモ科、山茶花はツバキ科なのに不思議なものである。

十分な発酵を終え、いよいよ湯を注いで飲んでみる。
琥珀色の澄んだお茶ができた。
味は。。。
うまい!
すごい力。
まさしくガラムの香り。
しかもシナモンやメントール、あるいは山椒にも匹敵するような痺れるほどの清涼味がある。
私はその夜熟睡し、不思議な夢を見た。

岩茶の本のおかげで、意外にも身近な巨木のお茶を発見し、嬉しい一日であった。

やはり年輪を重ねた一本の樹の力は相当なものだと察する。
根の深さが違う。
味の背後に余力を感じる。

|| 20:37 | comments (x) | trackback (x) | ||


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