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ベーシック・インカム
by 日詰明男
今年、とある大学の集中講義の終わりに、レポート課題の一つとして、

「もしベーシック・インカムが実現したら、どのような世界になるか予測せよ。」

という問いを出した。

後日、学生たちからベーシック・インカムに関する様々な意見が届いた。
以下は私からの返答として書いたものである。

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ベーシック・インカムは世界をどう変えるか

ベーシック・インカム(以下BI)が実現すれば、少しでも働くと、その報酬はすべてボーナスです。
ボーナスであるから、その内の何割かを所得税で徴収されても、それほど痛くはありません。
たとえ30パーセント、50パーセントであっても。

贅沢をしたい人が働けばよいのです。
そうした労働によって得る私有財産は推奨されます。
(この点が社会主義、共産主義とは決定的に異なります。)
贅沢以外でも、他人が理解できないような自分にとってだけ意義のある事業を起こすには、相応の私有財産を用意する必要があるでしょう。

ひきこもりも立派な社会人です。
(もっとも、かつて引きこもりと呼ばれていた人々は、欲しい物を買うために猛然と労働し始めるだろうと予測しますが。)
赤ん坊も、体の不自由な人も、皆立派な社会人です。

生存権を保証されているので、失敗を恐れず、事業を起こすことができるようになるでしょう。
結果、あらゆる分野でイノベーションが起こり、経済、産業は自然に発展し、GDPは高まるでしょう。
BIの原資にますます余裕が出てくるという好循環が生まれます。
失敗しても生きて行けるので、自殺者は確実に激減します。
再挑戦も何度でも可能です。

出生率も高まります。大家族ほど楽しく豊かに暮らせますから。

地方での生活ほど生活しやすくなり、都市への人口集中は改善されるでしょう。
都市の人口密度が低くなるので、パンデミックは起こりにくくなるでしょう。

特に贅沢をしなくても、他にしたいことがある人は、自分の天職を死ぬまで追求できるようになります。
誰もが芸術家(画家、彫刻家、音楽家、小説家、漫画家、詩人)、科学者になれます。
こうして学問や芸術文化は飛躍的に発展します。

生活に余裕ができるから、ボランティア精神は発達し、助け合いが自然に行われます。
災害があっても、復興はすみやかに行われるでしょう。

劣悪な労働条件では誰も働かなくなるので、労働環境はおしなべて向上するでしょう。
たとえば、介護や看護など、真に必要とされるハードな仕事ほど高収入となります。

教育費、医療費はもちろん無料とならなければなりません。
教育は主にボランティアによってすすめられるようになるでしょう。
教育者は最高の芸術家でもあるのですから。
余談ですが、医療において診療報酬を弁護費用のように成功報酬とすればヤブ医者が儲かるシステムは改善され、医療費は大幅に削減され、税金でカバーできるでしょう。
教育や医療においては、BIで無くても、無料でうまくいっている国は沢山ありますね。

一銭も貯蓄が無くとも、全ての人が安心して天寿を全うできる社会が実現します。
その時、あなたは何をライフワークとするか、各自考えてみてください。

=================
予想される反論に対する回答

*貧富の差が開くのでは
前述のように、労働によって得る私有財産は認められるので、貧富の差が生じても問題はありません。
冨の追求をしたい人は従来通りすればよい。
贅沢をしなくても自分の好きな道を全うできることが重要です。

*労働意欲が無くなるのでは
多くの人の欲望はBIだけでは決して満たされないでしょう。
贅沢のための労働に悲壮感はありません。誇りを持って行うことができ、どんな仕事でも耐えられるものです。
それ相応の報酬が得られるわけですし。
ワーキングプアという現象はありえないものとなります。

*外部から人が移住してくる
BIは国単位でなく、地方自治体レベルでも可能です。
BIが軌道に乗った社会は、文化的にも向上しているので、外部からの羨望の的となり、BI実施区域に視察、観光に来る人や、住みたいと思う人は増えるでしょう。
たとえば地方自治体であれば、住民登録したあと、数年間居住したのちにBIを受けられるようにすれば良いでしょう。
これは選挙権や被選挙権でも行われていることです。

*BIの原資はどこから持ってくるのか
もちろん、贅沢をするために行われた労働や事業収益からの所得税です。
消費税は無くてもいいですが、かけるとしたら贅沢品だけにかけられるべきでしょう。

技術論に入りますが、BIと地域通貨はとても相性が良いです。
BIは生活必需品のみを購入できる地域通貨として支給すべきでしょう。
しかも、時限付で。
つまり一定の期間を過ぎるとその地域通貨は紙屑となるのです。
そうすることによって、BIを貯蓄に回すことが無意味になります。
生存において貯蓄は不要となることもBIの眼目です。
経済は血液のように回るでしょう。
「宵越しの銭は持たない」ことを自慢した自由な江戸町人の心意気が復活するでしょう。
目的もなくむやみに貯蓄することは、経済という生き物にとって「血栓」に相当します。
現代人は未来への不安から、いくら貯蓄しても安心できないという悪循環に陥っています。
日本経済は深刻な鬱血状態と言っていいでしょう。

無効となった地域通貨や、富める人が棄権した地域通貨は、翌月のBI原資に加算され、再分配されます。

*福祉が削られるのでは
BIは基本的人権である生存権を保証する制度です。
これによって削られる福祉は、失業保険、生活保護、年金です。

従来の年金は高給取りだった人に支給しすぎです。
半面、貧しい人には生存できないほどわずかしか支給されません。
(しかも莫大にプールされた年金資金は、時の政府の思惑によって、株式や為替など、他目的に運用されていることも問題です。)

従来の失業保険、生活保護は、審査が役人の恣意的な判断に任され、その人件費も莫大です。
また受給者が少しでも働けば、失業保険、生活保護の額は減額されるため、受給者には働こうという動機が生まれにくくなっています。

いっぽう、障害者に対する保護は削られてはなりません。
むしろ従来よりもっときめ細かく支援すべきでしょう。
ただ、閉ざされた「作業所」で障害者に一律単純労働をさせるような支援は必要はありません。
繰り返しますが、単純労働などしなくても、そのままで、すべての人は立派な社会人なのですから。

*非正規雇用が増える
非正規、正規という区別はなくなるでしょう。
同一労働同一賃金が当たり前になるでしょう。
職業選択は流動的になるでしょう。
それは悪いことではありません。
BI下では、自分のスキルは思う存分ブラッシュアップできるのです。
転職する度にスキルアップすることがあたりまえとなるでしょう。

======
最後に

以上、良い機会なので、思いつくことを列挙しました。

私は今のところBIに欠点を見出せないでいます。
小学生でも理解できるシステムのように思います。
精神論も持ち出す必要はありません。

かつて長い間、「ゼロ」を含むアラビア記数法をヨーロッパの権威主義者は採用せず、ローマ数字に固執し続けたことは有名です。
それによってヨーロッパの科学の進展にどれほどブレーキがかかったでしょう。

しかし今や、世界中の小学生が当たり前のようにゼロを操ります。
人類は時間がかかっても、いつか必ず最善解を選びます。
数十年、数百年、ひょっとしたら数千年かかるかもしれませんが、いつかBIを人類は必然的に採用するでしょう。BIはそのような類のアイデアだと考えています。

資本主義の権化ともいえる、ホリエモンや竹中平蔵が、近年BIを支持するような発言をし始めています。
私も最初は「あいつらだけにはBIを語ってほしくない。絶対に失敗するから真の実現が遠くなる」と思ったものでした。しかし今は、小学生でも理解できるシステムなのだから、彼らでさえ否定出来ないほどのものなのだ、と考えるようになりました。
誰の音頭であろうと、やってみるに越したことはないと今では思っています。


2021年9月12日    日詰明男




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