竹の都市、竹の幾何学、竹の音楽 at 武蔵野美術大学 ©2009 日詰 明男 GP program EDS 竹デザイン・プロジェクト 武蔵野美術大学
今回は、目には見えない造形を学生さんに伝えることを主眼とした。 目に見えない造形とは何か。それはたとえば一組の命令文で構成される「レシピ」である。 一旦レシピを会得すれば、時と場所、材料を選ばず、その気になれば他の惑星上でも再現できる。 壊したらまた作ればよい。 そしてまた惜しげもなく壊すことができる。 形あるものは壊れても、レシピは不滅である。 チベットの砂曼荼羅のプロセスを見よ。 数学は最も純度の高い「不滅なレシピ」の体系だとも言えよう。 具体的内容は、第一に、6次元空間格子の3次元空間への射影である「六勾(むまがり)」を竹で構成する手順を伝える。 第二に、上図面のような6次元空間格子の2次元空間への射影である「ペンローズ・タイル」状の都市計画を、砂曼荼羅や古代エジプトの測地技術(Geometry)よろしく、紐だけで作図する方法を伝える。 第三に6次元空間格子の1次元空間への射影である「フィボナッチ・ケチャック」の演奏法を伝える。 photo: R.H 黄金比の造形や音楽をひととおり紹介する。 photo: H.H photo: H.H 次の日はジグなしで組み立てる方法を伝授する。 photo: R.H それぞれ、 スクエア・ケチャック デルタ・ケチャック オイラー・ケチャック セブン・ケチャック イレブン・ケチャック と命名した。 くじ引きで8人ずつ5グループに分け、それぞれのケチャックを専門で担当してもらうことにした。 今後2週間、さまざまな学科が入り混じったそれぞれのグループには、運命共同体を演じてもらい、一種の都市計画ゲームをやろうという趣向である。 このゲームはヴァーチャル空間(セカンド・ライフ)ではなく、リアル空間(ファースト・ライフ)で行われる点が時代と逆行するところである。 毎日、各班に別れ、星籠をジグなしで一体づつ組み立ててもらった。 photo: H.H photo: R.H 完成。photo: R.H この解体に抵抗を感じた学生がかなりいた。 作ったモノへの執着が木っ端微塵になるまで、修行が必要である。 毎日が青空道場。 2週間後には、各班自力で組み立てられるまでになった。 練習の成果として、五人が一致協力して星籠を組み立ててみる。 記録は約3分。私一人だと5分弱かかるから、時間は半分に短縮された。 もうちょっと練習し、両手を有効に使えば、30秒を切ることも夢ではない。 photo: H.H ニューロ・アーキテクチャの都市区画を水糸だけで地面に作図する。一辺が2mの正五角形の区画がペンローズ・タイルの迷路を形成するように設計した。 宇宙人の一種「人間」の仕業に他ならない「ミステリー・サークル」も同様に紐で作図しているにちがいない。 授業中、地面に穿たれた釘を指差し、「これが私の作品だ」と学生に話した。 続けて、「この釘が作品というわけではない。正確には釘の”位置”が私の作品である」と。 「位置」に質量は無い。 学生の心にどれだけ響いたであろうか。 photo: R.H photo: R.H 週末の午前中を利用して、学生三十数名の力を合わせ、100本に及ぶ伐採をした。 竹林から現場まで徒歩10分ほどの距離である。 東京都内で、地理的にこんな理想的な条件は普通まずありえない。 好条件とはいえ、学生たちにとって竹の伐採と運搬などはじめての経験で、汗びっしょりとなり、かなりこたえたようだ。 photo: R.H 最初の五角ティピ立ち上げ。各班が好きな区画にティピを建てた。 photo: R.H photo: R.H photo: H.H まるで巨大な鳥の巣みたい。 photo: R.H セブン班はクリスマス仕様?photo: R.H 昨年も世話になった基礎デ4年の齊藤君は竹の風車を据えた。 二宮陽香さんはティピに石を敷き詰め、コンセプチュアルな作品を展示して下さった。 橋場亮介さん、福田真澄さんもティピを使って粋な仕掛けをしてくださった。 こうして実験都市は次第に個性を持ち始め、住人たちの匂いを反映し、好ましい猥雑さを帯び始めた。 photo: R.H photo: R.H 集落の発生。photo: A.H 竹林を伐採して新たな竹林ができたともいえる。 google earthが撮影してくれていればいいのだが。 苦労して作ったこのインフラを、期間は限られているが、骨の髄まで味わい尽くしたいものだ。 photo: R.H ティピに腰掛けが置かれ、次に竈が置かれ、とりあえず石焼き芋を作ってみる。 別のティピには自在鈎と囲炉裏が切られ、茶を入れたり、鍋を囲んだりして活用した。 photo: H.H 有名な寓話「ストーン・スープ」が現実になった。 ワークショップ最後の2日間は「祭」を仕掛けた。 人、建築、音楽、食を総動員させ、都市は筋書きの無い劇場と化す。 「都市」は祝祭を生む装置にほかならないのだから。 ニューロ・アーキテクチャーにはニューロ・アーキテクチャーならではの祭が生まれてしかるべきだろう。 この祝祭の日、ストーン・スープ奉行になってくださったのは千葉からの友人、和地志伸さんと大石咲代子さん。 器や箸、スプーン、包丁など、すべて都市計画建設で余った竹で間に合わせた。 竹の節を使って炊いたご飯の甘さには皆舌鼓を打った。 今日使った竹の器は明日の鍋の燃料になる。 竹林はいくらあってもいいと、誰もが思っただろう。日本人が竹林を一生懸命移植してきた理由がよくわかる。 大抵のものは竹でなんとかなる。いやそれどころか既製品より機能的であることが多い。 人は百円ショップに走る前に、まず何事も竹で作れるのではないかと疑ってかかったほうがいいだろう。 大学構内で火を焚くことは、今や日本の大学キャンパスでは禁止される傾向にある。 しかしそもそも人は火をコントロールできるようになって人になったのではなかったか。 火を使ってはならぬとする風潮は「人間やめますか」と迫られているように聞こえてならない。 原子力推進派の方がよほど危険であるにもかかわらず、著名人までクリーンでエコだと推奨する始末。 人間の野性も骨抜きにされたものだ。 photo: H.H photo: H.H 千葉県からいらっしゃったサックス奏者の浦山昌生さんが即興に加わる。 ギター侍こと鈴木左千夫さんもほぼ毎日乱入していただいて、たたけたけとジャムセッションを繰り広げた。 匂いといい、音といい、人ごみといい、バリ島ウブドの終わりの無い夜を髣髴とさせた。 photo: A.S 夜景photo: H.H 1週間前、私はあえて楽譜というインフラ(レシピ)を渡すだけにとどめた。 さあ、どんな表現が学生によって開花するか。 以下にそれぞれの班が演じた動画をお見せしよう。 なかなかの多様性が生まれている。 これは素数11の平方根小数部の自己相似構造を音で表現したもの。 題して「イレブン・ケチャック」。 演奏も完成度が高い。 終わり方も秀逸。 バリ島の田園で鳴っていてもおかしくはない。 これは素数7の平方根小数部の自己相似構造を音で表現したもの。 題して「セブン・ケチャック」。 これも十分民族音楽的に聞こえる。 これは超越数である自然対数の底(ネイピア数)の小数部の自己相似構造を音で表現したもの。 題して「オイラー・ケチャック」。 オイラー班には不思議と”自然児”ばかりが集まり、個性のぶつかり合いが折り合うかどうか危惧されたが、よくここまでまとまったものである。 これは素数3の平方根小数部の自己相似構造を音で表現したもの。 題して「デルタ・ケチャック」。 演奏中の無音部分が際立っている。 私はたたけたけを聞くとき、この無音の瞬間を待ち焦がれている自分に気づく。 これは素数2の平方根小数部の自己相似構造を音で表現したもの。 題して「スクエア・ケチャック」。 パフォーマンスの構成に独創が感じられる。 女性だけのグループなので、巫女の舞をちょっと髣髴とさせる。 最後にはすべての班による競演が行われた。 この鳥瞰映像で都市全体を観察するのは面白い。 音はアフレコではなくライブ録音である。 ケチャック班が次々と加わるにつれて、独特のうねりが生じてくる。 実は今回のプロジェクトで、これをぜひとも実現させたかった。 別のリズム系のケチャック同士が都市の辻辻で出会い競演する状況を作りたかった。 通常の祭りでは山車同士の喧嘩になりがちだが、この都市では、各グループが競いながらも協働する。 いくつもの太陽系が集まって銀河の渦となり、いくつもの銀河が銀河団を形成するように。 結果、音楽はより豊かなものになるはずである。 photo: R.H 祭の2日間は、各ティピで何を営んでも良い。 チョコ・フォンジュ、本格的ケーキ+紅茶、本格的キムチチゲ、カレーライス、焼き餅、焼きおむすびなど、ほとんど食べ物屋が営まれた。 各班で消費しきれない余剰は、他の班へのおすそ分け合戦というか、いわゆる物々交換が自然発生的に行われた。これもひとつの経済のあり方である。 photo: R.H photo: R.H photo: R.H photo: R.H 祭の最終日、それぞれの班では別れを惜しむ声が聞こえた。 たった2週間、ムサビの芝生上で起こったうるるん滞在記である。 普通、他学科の学生同士が交流する機会も少なかろうが、今回の企画で自然に友達になれたと言ってくれた学生が多かった。たたけたけの練習はその格好の架け橋になったことだろう。 誰でも何かしら演奏にかかわれる「たたけたけ」は、強力なコミュニケーションの道具ともいえる。 個を殺さない社会の雛形を見た学生もいた。 その学生の視野にはベーシック・インカムの価値観がしっかりと根付き始めている。 予想を上回る静かな熱狂、自発的創造の発動、交換経済が、誰が掛け声をかけるわけでもなく、自然に生まれた。 人、竹、建築、都市、幾何学、音楽、火、食(ついでに酒)、経済と、一見無関係に見える要素が有機的に絡んで進行し、自律運動を始めた感がある。 これもスタッフをはじめとする方々の支えがあったからであることはもちろんだが、加えて幾何学の力が大きかったと思う。 押し付けがましくない幾何学とでも言おうか。 今回学生に提示した幾何学というインフラは、かくも自由で豊かであることを、学生たちは無意識にせよ実感してくれたのではないかと思う。 都市の実験は成功した。 この都市インフラが実現するのは数学的必然であろう。 それは明日かもしれないし、あるいは千年後かもしれない。 学校は社会の縮図である。 あらゆる面で閉塞した現代社会において、義務教育を含めたどの教育現場にも重苦しい閉塞感が深く影を落としている。 しかしそれを逆手に取ることによって、学校でこそ未来に可能な社会の雛形を提示できるのではという一縷の希望を、今回武蔵野美術大学で私は学生と共に垣間見ることができた。 Hiroyuki Hashiguchi (H.H) Akiko Suzuki (A.S) Ryosuke Hashiba (R.H) Akio Hizume(A.H) residents, players, arrangers students of the MAU architect, composer, director Akio Hizume coordinator Takaaki Bando project assitant Hiroyuki Hashiguchi official assitant Chiemi Inaba Tomoko Nishi KEYAKI member Tomohisa Saito KEYAKI Meister Natsuki Matsumoto KEYAKI friends Natsuki Arita Hiroaki Shibata special thanks Shigeyo Takeuchi Yoshihi Futana building assist Shotaro Hirano Haruka Ninomiya Hiroaki Shibata Nao Takeno Kenji Oda Wanseok Ryu Satomi Kasai Stone Soup Shinobu Wachi Sayoko Oishi Hanae Miyamoto Haruka Ninomiya Saki Mitsushima guest musician (improvisation) Masao Urayama Sachio Suzuki Yuichi Sasaki Mitsuru Nishimura Takayuki Matsumoto Nao Sato Ayame Iizumi guest residents Haruka Ninomiya Tomohisa Saito Masumi Fukuda sponsor EDS Bamboo Design Project Tribute to Sir Roger Penrose |