STAR CAGE
黄金比の茶室 高床式
星ぼっくりカフェ

©2007 日詰明男

1st November 2007
Chiba

広島で一週間だけ展示したフィボナッチ茶室を千葉に再建した。
ラフな地面に、どのようにしてフラットな地盤を準備するかが課題だった。
四角いウッドデッキを発想しがちであるが、どうせ作るならありきたりのものではつまらない。

そこで五勾(ごまがり)状のプラットフォームを考案した。
2種類のパーツを組み木のように嵌め込むだけなので、組み立て/分解が容易である。
構造材は編まれているので、筋交いやボルトなしでも粘り強い基壇が得られる。
五脚だから矩形平面よりもはるかに座りは良い。
床の高さはできるだけ高くしたかった。
そのほうが風通しが良く床は傷みにくいし、薪などを床下に納めることもできる。
もぐりこんで作業することもたやすい。
小動物と平和的な棲み分けができる。

床板を張っているところ。 子猫が真ん中で昼寝をしている。

無事完成。 材料の加工から組み立てまで、誰の手も借りずすべて自力で建てた。 この建築は足元から天辺まで100パーセントの発明である。

にじり口から中に入る。
囲炉裏、自在鉤、火吹き竹が揃っている。
囲炉裏でコーヒー、お茶、鍋、燗酒、焼きもの、何でもできる。
名づけて「ホシボックリ・カフェ」。

20ヘルツから再生可能なバイブロトランスデューサーを壁に仕込み、音楽を聴く。
この建築全体がスピーカー・コーンとなり、リスニング・ルームとしても機能する。
この建築はマイクロフォンとしても使えるかもしれない。
ここで黄金比に基づく音色・音階・リズムの音楽を聴くもよし。
客人提供の音源を聞くもよし。


見上げ。
柿の枝が絡み、貫入しているところがミソ。


茶室の中から柿の木を眺める。


メジロのつがいが柿をついばみに来る。
竹の隙間越しに至近距離で眺めることができる。
鳥も警戒しないようだ。
彼らからすればヒトが人籠(ヒトカゴ)に取り囲まれているようなもの。


マツボックリで点てたホシボックリ・コーヒーを飲むという趣向。
2杯のエスプレッソ・コーヒーをいれるのに5個の松ぼっくりがあれば十分。
ちなみにコーヒー豆の焙煎もこの囲炉裏で行った。


役目を終えたマツボックリの燃えカス。
星ぼっくりカフェとほぼ相似形である。
なんとなくメリー・クリスマス。


コーヒーを飲もうとして見下ろすと、表面に天井の螺旋がくっきり映り込んでいることに気づく。
この茶室では、天上と奈落、両方向にフィボナッチの無限を覗くことができる。
しかも松ぼっくりを燃して点てた茶の表面にイデアたるフィボナッチ葉序が浮かぶわけで、これはいかにも錬金術師が気に入りそうなメタファーである。

photo: Tomoko Ninomiya

飲み終える最後の一滴まで天井の螺旋は映り込む。 カップの内側の表面に映った螺旋もコーヒーの表面に映りこみ、コップの中はまるで螺旋の嵐である。

photo: Tomoko Ninomiya

螺旋の網をくちゃくちゃに壊して遊ぶ。


円形のにじり口をあけるとき切り取った円盤をそのまま扉に活用する。
エクスプロージョン式パズルの原理でロックがかかる。
このドアを閉めれば、木枯らし吹きすさぶ日でも内部は暖かい。


全景

photo: Tomoko Ninomiya

深夜、満月を望む。

photo: Tomoko Ninomiya

はるばる熊野から石本真理さん、能登谷恵さん、そしてお友達の渋谷大介さんが来てくださった。
石本さんは茶室内にデスクトップ・コンピューターを持ち込み、自作の竹スピーカー8本を設置し、8チャンネル制御のコンピューター音楽を聞かせてくれた。


竹筒酒。


囲炉裏にふたをするとちゃぶ台に早変わり。


真理さんと恵さんが奥の床の間に作ってくださった松飾。
実はこの3角形の床の間の下は、掃除の際の掃き出し穴にもなっている。

photo: Tomoko Ninomiya

試みに屋根をヨシズで葺いてみた。工費6000円。
螺旋の効果があってか、連日の強風にも耐えた。
小雨や夜露ならば十分凌いでくれる。
内部音響も向上したように思う。
なにより暖かく、私はここに寝袋を持ち込んで2泊したものである。

ともあれこれが最善解というわけではない。
この他にもさまざまな葺き方が考えられるだろう。
ちなみにコスタリカで建てたときは椰子の葉で葺いたことがある。

photo: Tomoko Ninomiya

囲炉裏を囲んでの鍋。
定員は8人から9人。

photo: Tomoko Ninomiya

松ぼっくりの置き火が美しい。


囲炉裏の炎を見つめる少女。


日中、囲炉裏の煙とヨシズから洩れる日光による、神々しいほどのチンダル現象がみとめられる。

photo: Tomoko Ninomiya

ハンモックで眠る友人。

photo: Tomoko Ninomiya

ホシボックリ・カフェを書斎として使う。
囲炉裏のふたと七輪を組み合わせれば即席の文机となる。
時節柄、年賀状を書いているところ。



この茶室は2008年1月1日に惜しまれつつ解体された。
その前日の大晦日、私は客人と茶室の中で年を越した。
あたりはしんと静まり、竹の間から星々が降りそそぐ。
折りしもどこか遠くのお寺から除夜の鐘が聞こえてきた。
借景ならぬ「借音」である。
はからずもフィボナッチ・ケチャックとのコラボレーションと相成った。
私たちは息を殺し、その絶妙な掛け合いにしばし聴き入った。

「除夜の鐘+フィボナッチ・ケチャック in 星ぼっくりCAFE」を聞く
(約2分 mp3 2.5MB)


個展「星ぼっくりCAFE」営業を終えて

異例の個展として2ヶ月間営業した星ぼっくりCAFEには多くの友人、知人、通りすがりの人々が来て下さった。
茶室の中でされる会話は独特な広がりをみせ、意味深い夢見の話から気がつけば宇宙論や哲学的問題にまで発展した。
といっても決してメタフィジカルな空想に耽っていたわけではなく、まったくその逆である。
社会問題についても語らい、急所に触れることしばしばだった。

あるときは世界に本質的な滑稽さを笑い飛ばす。
ある意味、この世界は最大級の冗談なのだと。
といっても決して世界の完成度を貶めているわけではなく、まったくその逆である。
最大級の冗談を聞いた人は腹を抱えて笑い死にしかねない。

世界をつまらなくしようとする勢力に対しては智略をもって講ずる。
千利休もこのように茶室を活用したと聞いている。


「この茶室を我が家の庭にも!」という方はメールでお問い合わせください。

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