STAR CAGE in G4G8
民主主義的階段
黄金比の茶室

©2008 日詰明男

1st February - 31st March 2008
Atlanta, U.S.A.

Client: Sarah Garvin and Tom Rodgers

2年毎にアトランタで開催される国際会議Gathering for Martin Gardnerに今回も招待された。
それに先立ち、私はその主催者であるTom Rodgersの持つ広大な敷地内に「数学遺産」を建設すべく2ヶ月間の滞在をした。

Martin Gardnerは周知の通りサイエンティフィック・アメリカン誌等で数学の面白さを多くの人に伝える第一人者である。
著作にはペンローズ・タイルへの言及も多い。
私自身は氏の著書「奇妙な論理」をかなり面白く読んだものである。
氏の名前を冠するこの国際会議では、毎回世界中から300人ほどの数学者、芸術家、パズル家、マジシャン、ジャグラーが集結し、今年で8回目を数える。
私は前回と今回の2回だけの参加だが、前回は、私が最も影響を受けた数学者ロジャー・ペンローズも参加され、個人的にも親交を深めることができた。

photo: Tomoko Ninomiya

まず作るのは民主主義的階段である。 日本(1994)、オハイオ(1997)、ニュージーランド(2005)に続き世界で4本めの試みである。
時差ぼけに苦しみながら、敷地斜面の測量を始める。
二つの水準器を使って4フィートごとに正確な高さを測る。 この作業にミスは許されない。

そのデータをもとに、フィボナッチ・ラティスに基づく階段の配列を決める。
材料や工法を決める際にやや紆余曲折があり、2週間を費やした。
結局、アムトラック払い下げの枕木を使用することとなった。

photo: Tomoko Ninomiya

グアテマラから移住してきたというサントス、ルーカス、カルロス、オズワルド、リカルドが毎日手伝ってくれた。
蹴上げは正確に18cmを保つ。


photo: Tomoko Ninomiya

彼らは早朝から日暮れまで実によく働く。
2週間はかかるだろうと思っていたが、わずか1週間で階段の骨格が出来上がった。


photo: Tomoko Ninomiya

完成。


photo: Tomoko Ninomiya

アメリカで活躍されるlandscape architectであるTakeo Uesugiさんに排水の便を工夫していただいた。


photo: Tomoko Ninomiya

全部で76段。水平距離は100mに及ぶ。
途切れのない民主主義的階段としては今までで最長である。
この階段を上り下りする人は音の無い一幅の音楽を無意識に経験する。
これは「フィボナッチ・ケチャック」を演奏する経験と同値である。


上の写真は、2年前にここで制作したBamboo Fibonacci Tea houseである。
今回修復だけを予定していたが、竹の保存状態が思いのほか悪く、民主主義的階段が予想以上に早く竣工したこともあって、私たちは第2の数学遺産として正五角形のプラットフォームに据えた黄金比の茶室「ホシボックリ・カフェ」を残された滞在期間を使って再建することにした。
ただしクライアントの意向は、次はにじり口を設けず、西洋人でも立って出入りできるようなオープンな茶室にしたいということだった。
この条件をクリアするには今までのように合板を使うことはできない。
今後この建築工法が進展してゆくためにも、この問題は避けて通れないものである。
そして私はあるひとつの解に至り、模型を作って施主の了解を得て後、ただちに着工した。
素材の竹も、前回より肉厚で堅牢なコロンビア産Guaduaを使うことにした。

photo: Tomoko Ninomiya

竹の小屋組を支えるフレーム構造は米国で最も手に入れやすい杉の2*12材を用いた。
必要な大工道具と木材は一度にドカンと揃えてもらった。 ここまでされたらもう後には引けない。

photo: Tomoko Ninomiya

こんなところでのみを振るうことになるとは。

photo: Tomoko Ninomiya

材料の加工が終わり、いよいよ組み立てである。

photo: Tomoko Ninomiya

この5角形プラットフォームは筋交なしで安定する。釘は使っていない。 5人が5回対称の位置について、せーので持ち上げ現場に運ぶ。


ぴったり定位置にプラットフォームがおさまった。


少し下からの眺め。

photo: Tomoko Ninomiya

2日かけて床を張り終えたところ。


photo: Tomoko Ninomiya

支持フレーム構造を組み立てているところ。これが今回の発明である。
超柔構造というべきせっかくの耐震性を殺さないためにはこれが最善解ではないだろうか。

読者は梁の交叉部に柱が無いことを奇妙に思われるだろうか?
こうしたデザインは建築家によってしばしば恣意的に試みられる。
私自身、建築の学生だったころ、無意識にこの手のデザインをしきりに使っていたことを思い出した。
だが、この支持フレームの構造に恣意はまったく介入していない。
上部の小屋組み構造の原理をそのまま適用したものである。
しかも単なる意匠的な遊びではなく、適度なしなやかさを構造に与えている。
結局これを探していたのか、と今回あらためて思ったものだ。

photo: Tomoko Ninomiya

満を持していよいよ竹の小屋組みにかかる。


photo: Tomoko Ninomiya

支持フレームと小屋組みは1日で組み立て完成。


麓斜面から望む。


いつもながらの内部からの見上げ。


内部からの眺め。遠くに見える竹のドームはCaspar Schwabeさんの作品。


特に入口を決めなくてもいいのだが、一番入りやすいと思われる方向はこちらである。
右手に見えるアルミニウムの作品はGeorge Hartさんのもの。
そのほかRichard Esterle, Peter Swedenborg, Goodman Strauss氏の作品が一夜にして出現し、Tomの家の庭はパーマネントな野外彫刻公園となった。

photo: Tomoko Ninomiya

3月28日は、この家で国際会議のレセプションがあり、300人の参加者が集まった。 私は囲炉裏に火を入れ、終日、お茶やコーヒー、そしてお酒をふるまった。 左からオランダ人のJan、私、そしてスロベニア人のTeja。
最大で一度に11人が囲炉裏を囲むことができる。


フィボナッチ茶室の屋根を葺く方法はいくつかある。
コスタリカでは屋根を椰子の葉で葺いた
大きな単位の葉瓦を葺く方法(写真左)。これは以前日本で試みたことがある。
今回はキャンバス地を円錐状に縫い合わせて屋根を葺いてみたいと思う(写真中央)。

そしてもうひとつの方法がある。相似形の三角形のシートをフィボナッチ葉序につないだ風車状の構造である(写真右)。名づけて「フィボナッチ風車」。これはしかし屋根として使うにはもう少し時間がかかりそうである。

photo: Tomoko Ninomiya

国際会議の最終日の最終セッション、私はプレゼンテーションを行った。
今回は参加者も多く、またパラレルセッションを設けず、会議を一本化したこともあって、与えられた時間はわずか10分だった。でもこれは悪いことではない。
私はこの2年間の進展を駆け足で報告した。
今回の話の目玉は「黄金比の音楽」と「フィボナッチ風車」である。
観衆に喜んでもらえたと思う。

photo: Tomoko Ninomiya

フィボナッチ風車をOHPで見せる。
この作品はわずかな空気の動きや湿度の変化に大きく反応する。


Special Thanks
Dr. Takeo Uesugi
Mr. Bill Grove
Yoshi Okochi San
Mieko San

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