旧暦七夕コンサート2012
静岡市美術館
24th Aug. 2012
現代民族音楽


チラシ図案: designed by A. Hizume
この一枚の中に今回の七夕で試みた構想がすべて盛り込まれてある。

photo: Norio Sato

口上
祭と幾何学

ここ数年、旧暦の七夕の日に、京都のギタリスト夢美路丈旁と毎年ささやかな 七夕コンサートを開いています。
今までは京都で行ってきましたが、今年は静岡市美術館に場所を移します。

みなさんは数学や幾何学を冷たくて無味乾燥なものだと思っていませんか?
ところがどっこい、およそ自然界に存在するもので、数学とかかわらないものな どないと言っていいでしょう。

人間もまた自然の一部。 古代人は星の運行に学び、正確な暦を作るために数学を発展させてきました。
現代も世界各地の祭では、天体や数(とりわけ素数)への偏愛をみることができ ます。
たとえば日本の雅楽や神楽は、天体の運行をまねた時計仕掛のように進行しますね。
それらはまるで幾何学的な曼荼羅を見るようです。
私たちは「無限」を扱う数学的方法によって、時空の途方もない大きさを垣間見ることができ ます。
しかし現実の宇宙ははるかに複雑で、未だほとんど謎だと思っていいいでしょう。
さしづめ現代人は竹器時代に生きる超古代人なのかもしれません。

この七夕コンサートは、祭の音楽やしつらえの構造に古くて新しい数学を導入す る試みです。
登場する数学は、黄金比、フィボナッチ数列、ペンローズ・タイル、フラクタル 幾何学。
新しい道具立てによって伝統を抽象化し、再構築することによって、祭に新しい息吹が吹き込まれ ることでしょう。

アジア人として、せめて七夕の日ぐらいは、無味乾燥な日常を忘れ、空を見上 げ、大地に足をつけ、この現実宇宙の広大さについて思いを馳せることにしま しょう。
                               日詰明男


ライブ録音を聞く
(mp3data, 94.3MB)



過去の旧暦七夕コンサート口上


演奏者

冥王星: ギター即興
夢美路丈旁

アルタイル: フィボナッチ・ケチャック
曽根香澄, 伏見奈那子, 田内百合子
松田沙紀, 庵原飛鳥, 益井悦郎
秋場佐登美, 秋場美緒


デネブ: デルタ・ケチャック
柳原由実子, 内沼良晴
伊藤琢磨, 伊藤保子


ベガ: スクエア・ケチャック
岩倉牧, 植田恵, 二宮知子

上弦の月
日詰明男

photo: Norio Sato

演奏は葵タワー1階エントランスホールに立つフィボナッチ・タワーからはじめられた。
竹のスティックでデルタ・ケチャックを演奏しながら館内を練り歩く。

photo: Norio Sato

静岡市美術館エントランスホールを練り歩いた後、日詰は4分ほどで星籠を組み立てる。 ほかの演奏者は演奏を続けながらそれを見守る。

photo: Ryohei Aoki

すべての奏者が定位置につく。
その布陣はベガ、アルタイル、デネブなどの星座を反映している。
導入部のデルタケチャックが消え入り、しばらくの静寂をおいて、本編の演奏が始まる。
観客は150人ほど集まった。
ちなみに、天井に3段の懸垂線を描いて架かる紗幕は「天の川」&「天女の羽衣」&「富士山のシルエット」という3重の抽象である。
その天の川から無数の五色の星星が吊り(釣り?)下げられれている。
これも私の設計である。
星星は事前のワークショップで大勢の人に作ってもらい、一つ一つには作者の願い事が書かれている。
よく回る星ほど願いが叶うとか。
余談だが、願い事が書かれた色紙の星は、このコンサートの8日後、旧暦お盆の満月の下、富士山頂上で燃やすことになった。
としたかったのだが、大人の事情からそれは許されるわけもなく、実際は旧暦お盆の満月の下、我が家の茶室の囲炉裏で、多くの関係者の立会いで、厳かにお焚き上げの儀をとりおこなった次第である。
(協力:山本佳世先生と川根中学の学生さん、藁科生涯学習センター)

photo: Norio Sato

フィボナッチ、スクエア、デルタ・ケチャックの織り成す音の網目、音の雲の上を夢美路丈旁が軽やかに即興演奏でからむ。

photo: Norio Sato

フィボナッチ・ケチャック班は青い衣装で鷲座アルタイルを演じる。

photo: Norio Sato

スクエア・ケチャック班は赤い衣装で琴座ベガを演じる。

photo: Norio Sato

デルタ・ケチャック班は白い衣装で白鳥座デネブを演じる。

photo: Norio Sato

最後の15分間は大勢の観客が演奏に乱入し、会場は熱狂に包まれた。
とても稀有な出来事になったと思う。

photo: Norio Sato

最後に観客に手伝ってもらい、いちにのさんで、星籠を一瞬で解体。
カタルシス!

photo: Norio Sato

17人の奏者は再び隊列を作り、フィボナッチ・ケチャックの演奏を続けながら会場から立ち去る。
観客は変拍子手拍子でそれを見送った。

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