竹のフィボナッチ茶室
Bamboo Fibonacci Tea House
2025年11月
竹LABO+エシカルバンブー@山口県宇部市
ⓒ2025 日詰 明男

竹のフィボナッチ茶室
サイズ:4mx4mx5m

私は植物の「葉序原理」を使った建築「葉序建築」を2000年から国内外で数えきれないほど建ててきた。
黄金角(137.5…°)を徹底的に活用し、工学的な機能を引き出したデザインである。
円錐形の小屋組から始まり、円筒、懸垂線、楕円、放物線、双曲線を使った小屋組を試み、それぞれにユニークな建築機能が発見された。
曲面の形状のみならず、1重螺旋、2重螺旋、3重螺旋を使い分け、原理的に5重螺旋、8重螺旋、以下同様というように、無限のフィボナッチ数重螺旋の葉序建築が可能である。
スタジアム規模の小屋組にも対応できるだろう。

この建築模型は2022年に制作した「葉序建築のプロトタイプ」である。
黄金円錐のフィボナッチ茶室 pdf 1.23MB

この模型は一見初期の円錐形の小屋組に回帰しただけのように見えるかもしれない。
しかしこのデザインには過去の作品群に無い要素が加わっている。
即ち、
小屋組みの立面はケプラーの三角形で構成され、ギザのピラミッドに内接する特殊な円錐である。
この円錐を使うと、定規とコンパスでは作図不能であった黄金角を厳密に決定することができることを2018年に発見した。
円錐コンパスの一般化と連分数 pdf 2.5MB
円錐コンパス: 植物はいかにして黄金角を作図しているのか pdf 2.2MB

この円錐を小屋組に使わずにいられようか。
さらに、
小屋組を2重螺旋、基礎と壁組みを3重螺旋とした。
こうすることによって、居室平面は2方向開口となり、十分な軒の出が確保される。

11月1日に宇部の竹LABOに着くと、地元の竹林から切り出されたばかりの極太の孟宗竹が用意されていた。
直径18cmにもなる最も太い竹から順番に使うことにした。贅沢な事である!

写真は一週間かけて主体構造が完成したところ。

内部見上げ。 孟宗竹の太さや重さを感じさせない軽快なシルエットだと思う。

引き続く作業として、長尺の真竹のヒゴを使い、屋根を葺く下地を作った。
5重螺旋、8重螺旋、13重螺旋に垂木ならぬ垂竹(たるたけ)を回した。
テント地、金属などで円錐状の帽子を被せればそのま半永久的な屋根となろう。

もちろん1重螺旋、2重螺旋、3重螺旋に垂竹を回せばさらに目は細かく、密になる。
それを下地に茅葺、棕櫚葺、杮葺も可能だろう。
選択肢は豊富である。

内部見上げ

床は、アフォーダンスとブリコラージュが存分に発動すべくジャングルジムのような構成にした。
竹の段差は床にもなり、椅子にもなり、机にもなり、階段にもなり、昼寝用のベッドにもなる。
余裕で10人ぐらいが車座になって談笑できるだろう。
中央に見えるロープはさながら「真御柱(しんのみはしら)」である。

11月15日、竹ラボでのバンブーフェスタで一般公開された。
内部空間は雪原のような静寂で、自分の鼓膜が発する音(参照音?)が聴こえるほど。
この空間でお茶を立てる代わりに音楽を奏でて過ごした。

案の定、子供たちは新しい遊びを見つけたようだ。
余白に富む建築ならでは。

よじ登らずにはいられない気持ちはよくわかる。

この建築に恣意や装飾は皆無で、いわば幾何学的発明の結晶である。

以下解説文より
=====
 葉序建築は硬すぎもせず柔らかすぎもしない新しい主体構造です。組みあがった構造には張りがあり、全ての関節に逃げ(クリアランス)が過不足なく分散され、地震などの外力を吸収します。金物や釘、通し柱や筋違は一切使っていません。
 耐震性のみならず、光や音を最も効率よく乱反射し、ハレーションのない柔らかな居住空間となります。室内は静かで落ち着き、居心地が良く、話し相手の声もよく聞こえるでしょう。 新しい工法が縄文建築を彷彿とさせるのは面白い事です。もっとも植物は縄文よりはるか数億年前から黄金角を活用したデザインを体現し、繁栄してきたわけですから、不思議はありませんが。人類は縄文時代からやり直すべきなのかもしれません。
 模型写真に示すように、この建築は当初木材を想定してデザインしました。木材の場合はすべての素材を水平にできますが、竹の場合そうはゆきません。
 全ての竹が等しく勾配を取り、折り合うことによって、「動的平衡」と言うべきバランスが生まれています。
 葉序建築は環境に負荷をかけない持続可能な建築デザインとなるでしょう。
 昨今の度重なる自然災害によって多くの人が避難を余儀なくされました。行政によって提供された仮設の居住環境は、急場凌ぎとはいえもう少し気が利いたものであってほしいと常々思っていました。狭い敷地に詰め込まれ、換気と日照も十分でなく、プライバシーは希薄で、隣人との距離が近すぎ、コミュニティ構築を阻害しかねません。
 葉序建築は、たとえ極限状況であっても、いかにして健康で文化的な住環境を確保するかという提案でもあります。「被災地にこそ独創的デザインの創造的導入を!」です。
 近年の世界的なSDGs運動を待つまでもなく、1980年代から欧米では主に竹を活用した持続可能なデザインの研究がすすめられています。近年は欧米のみならず、中米、南米、アジア、アフリカ諸国で様々な竹のデザインが「持続可能性」のスローガンと共に続々と生み出されています。
 いっぽうどの国も羨むほどの竹文化を誇っていたはずの我が国は、近代以降、鉄、コンクリート、プラスチックに席巻され、竹は隅に追いやられたまま、再評価の機運はなかなか起こりません。
 エシカルバンブー/竹ラボを舞台に、竹の幾何学建築の可能性を世に問えることに大きな意義を感じています。

参考文献
日詰明男 「葉序建築のプロトタイプ」多摩美術大学研究紀要39号(2024)

-----主催-----
竹LABO
エシカルバンブー

-----Special Thanks-----
小川卓馬氏
橋口博幸氏


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