小規模ながら、これまで私なりに続けてきた数学の研究成果を、来るべき建築の雛形として総合したものである。 誇張でなく、これは黄金比の工学的機能を最大限に引き出す建築装置となるだろう。 超柔構造と呼ぶべき耐震性。 無理数的な校倉造。 光や音を最大限に乱反射する特殊な空間。 準周期的な蜂の巣天井。木造アルハンブラ。 展示や動線の自由度を広げるさまざまな螺旋。 数学ならではの抽象性ゆえに、この建築は、パビリオンとして、寺院として、図書館として、美術館として、そしてもちろん住宅として、さまざまな用途に使われうる。 場所も、国籍、文化を問わず、世界のどこに建てられてもよい。 よく誤解されるのだが、数学は決して「個性」を殺すものではない。 むしろ、数学によって「余白」が増し、住む人の「自由」は最大限に発動するようになる。 もしこの建築が実現したら、長い時と共に、地域や風土、住み手の個性が自然に加わるだろうと想像する。 「個性」は建築家が設計する性質のものではない、と私は常々考えている。 今回は、よりシンプルに、ということで、最も安価である市販のツーバイ材を使うことを前提に設計した。 費用もそれほどかからないはずだ。
ひまわりの種同様、さまざまな螺旋が見つけられるだろう。全てはフィボナッチ数に従っている。 実施でも、各タイルに番号を記すつもりである。 数の建築。
屋根葺きは模型のように船の竜骨のように垂木を螺旋状に曲げ、野地板を隙間なく張っていく。 文字通り、船大工のような仕事になるだろう。 環太平洋に広がる木造建築の起源は、海洋民族が陸に定住する際、船をひっくり返して屋根としたことに始まるという説がある。
いわゆるパラボラアンテナ。 この屋根は、最も近い天体、すなわち足元にある地球のコアを観測するパラボラアンテナであるともいえる。 パラボラの焦点に点光源をひとつ吊るせば、天井に反射して、すべての光子は床に対して垂直平行に降りそそぐはずである。 つまり、影が出来ない!
よく考えれば当たり前とはいえ、この事実を初めて確認したとき、私自身、かなり驚いた。 このたった一つの事実だけでも、この建築は作るに値する。 なぜならこれは「建築の新しい定理」だから。
たとえば、葉序ボロノイ・タイルの高さを独立に変化させれば、魅力的な階段状の客席やステージが出来るだろう。 下の例は、円形競技場用に一定の勾配の客席を設計したものである。 前の席の人の頭がじゃまにならない、理想的な客席になるだろう。 デッド・スペースもほとんどなくなる。 もちろん、この円形競技場をカバーする屋根も、同様の原理で架けることができる。 私はこの競技場案を「フィボナッチ・コロッセオ」と名付けた。 あるいは「フィボナッチ武道館」。 フィボナッチへのオマージュとして、ピサの斜塔の傍らにでも建設したいものである。 (特許出願中)
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