事 業 報 告
菱形30面堂建立
1997 3/5−3/26
日 詰 明 男
 

「変容する多面体」と題する展覧会で、パンブーヘンジを作って大勢の人に星籠の内部空間を体験していただくことになった。
 会場は中野にある竹と土壁の独創的な空間「無寸草」である。

 直径2cm、長さ2mの竹を510本使い、画廊の一隅約4畳半の余地で建築作業が行われた。狭いこともあって作業は困難を極め、さながら−寸法師が瓶の中でボトルシップを作っているような風情だった。3月5日に着工し、完成したのは3月8日である。
 建築に協力して下さったのは上敷領哲氏、西野隆史氏、石黒敦彦氏、岡田正道氏、小松宏之氏、小日原充宏氏、柳瀬順一氏、岡本力氏ら。工事期間中は現場が公開され、観客の手を借りることしばしばだった。

 8日の午後3時頃上棟式が行われ、その数時間後には内部にドームが完成し、同日7時に竣工式として、人々に祝い酒がふるまわれ、皆に中に入ってもらった。そのあとも会期中を通して、来場者に心行くまで中に入っていただいた。
 パンブーヘンジの内部のドームはまさに直線だけで作られた球である。大人でも全身がすっぽり入る大きさである。写実を見ると雪国のかまくらを連想されるのではないだろうか。実は作業工程もかまくらそっくりである。
最初に中心の核を作って増殖させ、最後に中心部分を抜き去って空間を作るわけだ。
 私はもう何年も前から「黄金比の茶室構想」を新しい建築・都市形式として提唱しており、このパンブーヘンジはいわばその布石の一つである。星籠構造の可能性は、規模からしても、また実験的な意義からも、まず茶室でこそ試されるペきと考えるからである。
 しかしギャラリー無寸草自体が完璧な茶室空間であり、そこにまた茶室を作るのも季重なりかと思い、今回はあえて「夢殿」とした。法隆寺の夢殿は八角堂だがこれは菱形30面堂と言うペきだろう。
 この2倍のサイズの竹、すなわち直径4cm長さ4m以上の竹で作れば、大人でも中で立てる構造物が出来上がるだろう。

●音響的ホワイトアウト

 隙間だらけとはいえパンブーヘンジの壁体は厚い。中からも外からも見透しは困難になり、人が中に入ると気配まで消えるようだった。
 3月14日にはその壁面の隙間の対称的な位置に12個のランプが埋め込まれた。従ってランプは正20面体の頂点を形成する。点灯しても周囲に竹の影は投影されなかった。内部に入るとあらゆる方向から光が来るので、顔の陰影も消えてしまう。しわも消えるので女性に人気だった…とか。         
 まだ他に50個のランプを壁体に埋め込むことができる。いつの日か実際に合計62個の電球を埋め込み、正12面体系と、正20面体系と菱形30面体系をそれぞれ独立に光量制御し、光のフイポナッチ・ケチャックを演じさせてみたいものだ。62個全てを同時に発光させたときは、巨大な光の玉と化すことであろう。

photo: T. Ninomiya

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 中に入って声を出すと、妙に乾いたような音色だった。
私は雪国の出身だが、雪が降り積もった日はまさにこのような状態になる。
 3月15日には会場にモンゴル人のムンフバット氏が来て、ホ−ミーと馬頭琴のコンサートが行われた。一同はバンブーヘンジの内部でホーミーを歌ってくれることを期待したが、これは残念ながら実現しなかった。もし実現していれば、モンゴルのホワイトアウトの雪原で歌っているような気分だったことと思う。

 子供たちも中に入ったりよじ登ったりして喜々として遊んでいた。子供にとってはちょうどいい大きさなので、高揚する気持ちはよく分かる。
 また「変容する多面体」展の後、画家の二宮知子氏が個展を開くことになっており、彼女はパンプーヘンジの主旨をよく理解してくれた上で、これを支持体にして急遽インスタレーションを試みることになった。こうしてバンプーヘンジはさらに1週間生き延びることとなったのである。
 二宮氏はバンブーヘンジの一面に水を張り、周囲をを紗幕で幾重にも被い、特殊照明で場を演出した。

3月21日には、打楽器奏者の甲斐逸朗さんがバンプーヘンジの中に竹のばちを持って入り、30分にわたる即興演奏をして下さった。ドーム内部はいわば全周囲音源なので、一人で演奏しているとはとても思えない集中豪雨のような音群が生まれた。音量も相当なものであった。

 今回はほぽ3週間にわたる展示だったが、バンプーヘンジはほとんど変形することもなく、星籠構造の安定性もこれで十分に証明された。

 星籠に人一倍興味を持って下さり、一連のハプニングを直接・間接に呼び寄せて下さったギャラリー無寸草の岡本力氏に心から感謝します。

1997年4月記

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