星ぼっくり茶寮

©2008 日詰明男

1st August - 30th August 2008

主催・企画: 京都芸術センター

curator: 清澤暁子 + 草木マリ

2008年8月。つまり旧暦の7月、新月から次の新月までの一月間、京都芸術センターで月齢に沿う個展を開いた。
題して「星ぼっくり茶寮」。
当初は「星ぼっくりCafe」とするつもりだったが、松本夏樹氏の助言により、北大路魯山人に因んだ「茶寮」と呼ぶことにした。

メインエントランス脇に、星ぼっくり茶寮本体が建立。
作業は半日で終わった。
ここを中心に一月間さまざまな活動が行われる。

今回、オーディオ装置を収納するラックを増設。
もちろんハンモックも常設。
壁にはバイブロ・トランデューサーを取り付け、常時黄金比の音楽を流し続けた。
この音楽はおよそ70年変化し続ける。
星ぼっくり茶寮全体が鐘楼のように振動し、客人は全身でこの特殊な音響空間を体験する。

松ぼっくり10個(10ボックリ)を持ってきてくれた客人には自家焙煎エスプレッソ・コーヒーをお出しした。
燃料はもちろん松ぼっくりである。
時々親切なボランティアの方が、錦の社の御神水を汲んで差し入れて下さった。
会期中、松ぼっくりが枯渇することはなく、私は一度も増資(造幣局と呼ぶべき京都御所での松笠拾い)を行わなかった。
松ぼっくり本位制はうまく回転したと思う。
シャバではリーマンブラザーズの破綻など、大変な状況になっていたようだが。

京都芸術センターには2つの広いギャラリーがあり、それぞれにインスタレーションを設営した。
黄金比で作られた音楽、ペンローズタイル状の会場構成、フィボナッチ葉序に基づく建築をギャラリー内で統合した。
写真は南ギャラリーのインスタレーションである。
ペンローズ・タイル状の迷宮に配置された7組のスピーカーとランプを、都合14チャンネル独立に、コンピューターでリアルタイム制御している。
言うまでもなく音楽は音色、音階、リズムにおいて、すべて黄金比に基づいている。
この音楽もおよそ70年変化し続ける。

録音を聞く(mp3DATA 2.3MB)

照明は音響と一対一対応して点滅する。
今回五角形ブースの天井から吊り下げたのは新作「フィボナッチ風車」である。
かすかな空気の動きにも敏感に反応し、くるくると回転する。

いっぽうこちらは北ギャラリーのインスタレーション「FIBONACCI DRAGON part3」の動画である。


旧暦の7月7日(太陽暦8月7日)。星籠ワークショップで作った作品を活かして、エントランスホールに七夕飾りを置いた。星づくし、である。


フィボナッチ風車にはワークショップに参加した子供たち(一部大人たち)の願い事が書かれている。
「やせますように」と書かれた風車が一番よく回っていたので、きっとその願いは叶えられるだろう。


photo: Tomoko Ninomiya

南ギャラリーの第二茶室の内部見上げ。 近江八幡産の孟宗竹である。 屋外の第一茶室が使えないときはこの第二茶室が替わりに音響スタジオとして使用される。

photo: Tomoko Ninomiya

第二茶室内部で大音量の音響を楽しむ。 バイブロ・トランデューサーが壁に取り付けられており、茶室全体がスピーカー・コーンとなって何もかも振動する。

たたけたけ パフォーマンス

photo: Tomoko Ninomiya

会期中、毎日午後6時から8時まで、たたけたけ(フィボナッチ・ケチャック)のワークショップを続けた。
その練習成果を披露する目的を兼ねて、7月7日(七夕)、16日(お盆)、23日、30日の月の四相の日にささやかなお祭りを企画し、たたけたけをお神楽さながらに活用した。
まず竹の拍子木を持った演奏者たちがデルタ・ケチャックをたたきながら京都芸術センター館内を隅々まで練り歩く。

photo: Tomoko Ninomiya

エントランスを出た所で、デルタ・ケチャックを背景におもむろに星籠を組み立てる。 約4分。

photo: Tomoko Ninomiya

エントランス・ホールの七夕飾りの青竹を、根元から一節分切る儀式を厳粛に行う。 それを杯としてお神酒を回し飲みしてもらった。

photo: Yu Kadowaki

三人官女によるスクエア・ケチャックの演奏がゆっくりと始まる。

photo: Yu Kadowaki

少し離れた茶室内部ではフィボナッチ・ケチャックが演奏に加わる。
やがてギタリストのTAKE-BOWが超絶技巧的インプロビゼーションを展開し始める。
他の奏者はフィボナッチ・ケチャックでそれを支える。
星ぼっくり茶寮の建築躯体もそのまま音具となり、時折重低音を発すために使われた。
私は火の番をしつつ、火吹き竹で床を叩き、演奏に参加した次第。

photo: Yu Kadowaki

並行して茶室の囲炉裏では小さな火を焚き、甘酒や竹の筒酒を御燗した。
演奏者は時々手を休めて一口飲み、そしてまた演奏に加わる。


photo: Tomoko Ninomiya

茶室の外に出た新井氏がウクレレで即興に加わる。


photo: Tomoko Ninomiya

およそ二時間、演奏は途切れることなく脈々と続いた。
指揮者も台本もない。 皆それぞれ出来そうなことを思い思いに試し、世界のどこにもない民族音楽が生まれていた。

photo: Yu Kadowaki

パフォーマンスのしめくくりとして、先ほど組み立てた星籠を一瞬で解体。

星ぼっくり寺子屋

photo: Satoko Kiyosawa

やはり月の四相の各日、京都芸術センター4階の明倫茶室で、幾何学ワークショップ「星ぼっくり寺子屋」を開いた。

星の結晶を作ろう(1日)
星籠:六勾納豆(むまがりなっとう)を作ろう(7日)
プレアデスを作ろう(16日)
フィボナッチ・タワーを作ろう(23日)

難易度はどれもけっして低くはないが、小学生も楽しそうに付いてきてくれた。
写真は7日の寺子屋風景。
普段は大学院級の集中講義などで話している内容を、小学生に伝えようと努力した。

photo: Satoko Kiyosawa

まず正12面ジグを組み立てる。
子供は能動性を発動するとおそるべき集中力を見せる。大人は見習いたいものである。
集中しすぎで鼻血を出した子もいたほど。

photo: Satoko Kiyosawa

2時間ほどで全員完成。
子供たちはそれぞれ作品を持ち帰った。
ジグは何回も使えるので、子供たちは家に帰ってからも、星籠をウイルスよろしく無限に増殖させていることだろう。
星籠ウイルスは確実に感染した。
彼らが大人になったときが楽しみである。

ついでに言わせてもらえれば、現実のウイルスだって必ずしも悪者だけではないと私は思う。



お茶会


友人の山田さんが急遽星ぼっくり茶寮をお茶会に使ってくださることになった。 願ってもないことである。
二宮金次郎を借景。

photo: Tomoko Ninomiya

錆びたドラム缶囲炉裏での侘び茶。
利休、庵を選ばず。


にじり口から見る。


トンボ玉ワークショップ


ガラス作家大下氏が茶室を工房として使ってくださった。



バーナーの炎を使った制作作業の余熱で甘酒をあたためる。
無駄がない。


制作中のトンボ玉の表面に螺旋状のシルエットが映りこむ。


会期中、多くの人が竹の茶室に来てくださり、囲炉裏を楽しんでくれた。
いろいろな出会い、いろいろな会話が生まれた。
松ぼっくりが流通する時限社会実験。そのせいもあってか、ムーミン谷のようなキャラクターがどこからともなく集まるべくして集まったような。

茶室内の音響もその筋の人に評価していただき、大きな手ごたえを得た。
写真はないが、桂久美子さんのライブ演奏も星ぼっくり茶寮内部で行い、デジタル録音をその場で再生したこともあった。

幾何学の骨格の上に多くの人々が関与する有機的な展覧会ができたと思う。
苦労して設営した建築装置をひととおり使い切った感がある。
あれを使わずにただ展示しただけで終わっていたら、それはまるで料理を作って、そのまま誰にも食べさずに腐らせる行為に等しい。
私の作品はどれも「使ってなんぼ」である。
茶室を中心に、パフォーマンスあり、祭りあり、ワークショップあり、レクチャーあり、インスタレーションあり、幾何学グッズ店あり、カフェあり、居酒屋あり、等々と、規模は比較にならないほど小さいが、古の寺院建設過程に似たものがあったかもしれない。
有機農業ならぬ「有機芸術」である。

あのような活動が可能だったのも、京都という風土の懐の深さゆえだろう。

関係者の皆さん、参加してくれた方、ボランティアのみなさん、寛容なるご近所の皆さん、ほんとうにありがとう。



Special Thanks
西田範次さん
横山陽子さん
千代崎未央さん
黒濱亮さん
杵淵匠さん

協力(敬称略)
art space kimura ASK?
龍谷大学理工学部 四ッ谷研究室
京葉レヂボン
クラレ
LCC corporation
大阪成蹊大学芸術学部
muss
エコハウス町屋プロジェクト
真念寺


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