ケルン
KOLN

S 様

S さん、お返事ありがとうございました。
私は今ケルンにいます。
ケルンには3泊しましたが、もっと滞在していたくなる街です。
ケルンの聖堂は、ウルムほど繊細な作りではありませんが、別な意味で面白いと思いました。
観光客も多く、京都の西本願寺か奈良東大寺にいる気分です。
ゴシック建築のボキャブラリー満載の大交響曲といったところでしょうか。
2本の尖塔が完成したのは100年前とのことですが、あんな大変なものをよく2本も建てたものです。実に欲張りな建築です。
噂通りかなり傷んでいて、外壁は酸性雨と大気汚染によって黒く変色し、崩れ、かなり蝕まれていました。地上100メートル以上の高さまで登ると、頂上の尖塔の先端が所々ちょんぎれていました。あれは落ちたのでしょうか。
数百年かそこらで完成させようと急ぐあまり、加工しやすい石を選んだことが禍しているのかも知れません。
でも虫歯の治療の跡のように、悪いところは新しい石ですげ替えられ、懸命な修復の痕跡が至る所に見えます。これは一見つぎはぎだらけの建築に見えますが、私はむしろこうしてこの聖堂はだんだん美しくなり愛されてゆくだろうと思いました。

この聖堂は、社会活動の場としてかなり活用されているようです。コンサートなどが日常的に開かれています。
ちょうどオルガンのコンサートがあったので行ってみました。夜8時からのコンサートです。入場料は聖職者たちが完全管理していました。
蝋燭の炎だけで照らされた大聖堂の中で演奏は始まりました。曲の前後にはいかにも社会活動家然とした青年がなにやら熱弁をふるっています。彼はきっとこのケルン市の都市計画を地域ぐるみで進めているボランティアの人でしょう。
演奏はいまいちでしたが、響きは十分分かりました。照明もいろいろ工夫してみせてくれるのですが、現状の設備を利用してできる限り変化を出してみたという程度で、ぎこちないものでした。
コンサートが終わった直後、観客たちが神聖な祭壇に侵入してしまい、聖職者があわててそれを制止し、かなり憤慨していました。あとで企画者はこの顛末を申し訳なさそうに謝っていました。
どうも企画者と教会側に確執があるらしく、ニューヨークのSt.Johnのようにのびのびとはいかないようです。教会としては資金が入るのは歓迎するが、あまり土足で踏み入って欲しくはないということなでしょう。

オルガンとゴシック教会が相性が良いのは言うまでもありませんが、どうもオルガンの位置がしっくりこない教会が多いように思います。
笛で言えばリードの位置にあるべきなのに、見る限りゴシックではそのような位置に考慮されてはいないようです。聖堂の着工がオルガンの発明に先立つのですから致し方ないこととはいえ。
あるいは聖職者は「オルガンのために教会はあるのではないのだから」と言いわけするかもしれません。
でも私に言わせれば、偶像制作に精を出すぐらいなら、オルガンをより良く響かせる聖堂の研究をしたほうがよほど彼らの神は喜ぶと思います。

1998年12月5日

日詰明男

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