STAR CAGE
TTKTK
フィボナッチ・ケチャック ワークショップ
in Costa Rica

©2007 日詰明男

August-September 2007
Centro de Bambu
Puerto Escondido, Osa Peninsula, Costa Rica

中米産の竹を使い、できるだけ多くのスリット・ドラムを作った。

アルフレッドの次男アルトゥーロが積極的に手伝ってくれた。
毎日父親の仕事を手伝っているからだろう、彼はまだ小学生だが、私が何をしようとしているかすぐに察し、的確な手助けをしてくれた。
彼は既に手仕事のスキルを相当会得しているようだ。
ときどき見せる縛りのテクニックは実に大人びた手さばきで、基本技術を自在に応用しているようだ。
驚くべき子供である。
今の日本にこんなガキがいるだろうか?
一昔前の日本にはごろごろしていたのだろうが。

フィボナッチ・ケチャックは日本語では通称「たたけたけ」、ローマ字表記は「TTKTK」と呼んでワークショップを続けてきた。 ここコスタリカでは「TTKTK」を「ててかてか」と発音する。 最初の「ててかてか」に参加したのは、音具製作中にたまたま通りかかったオマル氏である。
しかし、なかなかリズムを飲み込んでもらえないで苦労する。

ヒラソル・トレの建設作業が始まった8月26日から、ほぼ毎日夕刻になると「ててかてか」ワークショップを開いた。
参加者は地元の子供が多く、さながら放課後学校のような風情だった。
子供ならリズムの習得が早いかと思いきや、意外にも大人同様、非常な困難にぶつかった。
これは一筋縄ではいかないと悟る。

8月29日。

9月2日。
戸惑いながらも、みな面白がって毎日参加してくれた。


ステファニーという11歳の子がついに原理を会得し、安定した演奏ができるようになった。
教育は粘りと忍耐である。

9月5日。 「ててかてか」の五拍だけは打てるようになったジェイソンが友達のホセルイスを連れてくる。
ホセルイスはあっという間にかなり複雑なリズムまで流暢に叩けるようになった。

すかさず、フィボナッチ・ケチャックの自己相似構造を図を駆使してホセルイスに理解させる。
彼は僕がいなくなっても、この村で「ててかてか」の先生になってくれるにちがいない。

3人での安定した演奏。しかしまだ即興をするほどの余裕はない。

9月9日。
仕事が終わった後、激しい雷雨が始まった。当分上がりそうもない。
めずらしく大人ばかりが集まり、「ててかてか」になだれ込む。
やはりどうしてもリズムが打てない人が続出。
その人には2拍を打ってもらい、ペースを支配してもらうことにした。
これが功を奏し、すべての参加者で演奏を楽しむことが出来た。
即興演奏する余裕が生まれたほどである。
みなでビールをのみつつ盛り上がり、相当長時間演奏を楽しんだ一日だった。
写真は左からホセマニュエル、ヨニ、ヒセラ、アキオ、ビエンベニードである。

9月11日。
この村に滞在最終日の「ててかてか」である。
ローカルテレビ局が取材に訪れた。
子供によってはカメラで撮影されているときに限って、うまく演奏できることが判明する。
現金なものである。
ある気質の子供には、見せかけであろうが何らかの権威による緊張感がどうしても必要である。
その代表がなんと先ほどのアルトゥーロであった。
まったく大人なんだか子供なんだか。

左からアキオ、ホセマリオ、ジェイソン、アルトゥーロ、ホセルイス、トモコ、ロメル。


以下9月11日の日記より

最初のうちは、大人も子供も区別なく、まったくリズムが身体に入らないので途方にくれた。
日本ならば、30分もあれば基本的リズムは大抵の人がマスターしてしまうものだが、ここではもっとも単純な「たたけたけ」の5拍のリズムでさえ教えることが困難である。
これは単に教え方だけの問題ではないだろう。
この目に見えない障壁はなんだろうと私はずっと考えながらワークショップを続けた。

コスタリカの人はみんな音楽が好きだし、サルサを踊り、地元のお祭りのお囃子だと、みな太鼓を機関銃のように正確に叩く。リズム感はとてもいいはずである。
おそらく、音楽はすべて口伝で、楽譜を見る習慣というものがないのではないだろうか。
おしなべて「読み」と「打ち」がなかなか一致しないのである。

いっぽう日本人だって楽譜を読む習慣が決してあるとはいえない。
日本の場合、やはり短歌や俳句に親しむ文化的背景は大きいと思う。
日本語を読むときに、私たちは無意識に打楽器奏者が楽譜を読む時と同じ脳内変換をしているに違いない。
いわば日本語は「打楽器的な言語」といえるのではないだろうか。
それに対して、他の多くの言語は笛やバイオリンなどの「旋律的な言語」だと言える。

そういえば以前、ある日本人がフィボナッチ・ケチャックのワークショップのあと、次のような感想を言ったことを思い出した。
基本的リズム「ててかてか」は5拍で循環するが、厳密には2.5拍子と定義される。
ジャズの名曲「テイク・ファイブ」はまさしくこのリズムで書かれている。
その人は、キーボードでテイク・ファイブを流暢に弾けるそうだが、フィボナッチ・ケチャックの「たたけたけ」がなかなかうまく叩けなかったと告白した。
ちなみにその人はドイツで生まれたそうである。

さて、コスタリカでのフィボナッチ・ケチャックのその後の経過であるが、地元の人は戸惑いながらも皆おもしろがって、結構ついてきてくれた。
さながら放課後学校のような様相を呈した。
今やこの村では「ててかてか」が小さなブームである。
あきらめず、たっぷりと時間をかけただけあって、最近ようやく演奏らしい演奏ができるようになってきた。
中でも特に安定した演奏ができ、自己相似原理の完全な理解にまで至ったのは11歳の女の子と男の子、15歳の男子、大人はわずか一人である。
人数は少ないが確実にフィボナッチ・ケチャックの種子をコスタリカに植えられたと思う。
彼らは僕がここを去っても、この音楽を広げていってくれるだろう。
昨日はテレビ局の取材もあった。
数十年後の展開が楽しみである。

Organizer
Steven Bell (N.P.O. Friends of the Osa)
Alfredo Quintero (N.P.O. Friends of the Osa)

Amigo
Concepcion Lopez Diaz
Bienvenido Quintero
Johnny Serracin

Special Thanks
Dennis Vasquez (N.P.O. Friends of the Osa)
Gioconda Jimenez (N.P.O. Friends of the Osa)
Paco

Assist and Photograph
Tomoko Ninomiya

Supported by





Return to Top Page