2010-04-05 Mon [ マーティン・ガードナー ]
by 日詰明男
9th Gathering for Martin Gardner(G4G9)初日の夜、メイン会場となるリッツ・カールトン・ホテルのレセプションは参加者でごったがえした。その日はレジストレーションをするだけなのだが、久々に会う人々と談笑したり、紹介しあったり、ミニパーティーの場と化していた。新種のパズルを披露する人、大道芸的な手品をする人なども。
その中に懐かしいルービック・キューブを常にいじくりまわしている若者がいた。
手さばきは尋常な速さではない。
その若者はスタンフォード大学の学生だという。
ルービック・キューブが発売された1980年当時、私はその美しさに魅せられ、解かずにはいられなかった。
平均4分で解けるようになって、ちやほやされたものだが、程なく、萩本欽一も解いたという噂を耳にして、すっかりキューブ熱は冷めた。
そのことをうっかりその若者に話すと彼はキューブをくちゃくちゃとシャッフルし、私に渡す。
彼は他人がどう解くか興味があるという。
しょうがない、やってみるかと解きだすともう止まらない。
懐かしい感触。しかし私の頃より回転の滑らかさは飛躍的に向上している。
むしろすべりが良すぎるほどだ。
私が悪戦苦闘している間、彼は別のルービック・キューブを取り出し、他の人と談笑しながら涼しげな顔でカチャカチャと解いては壊しを繰り返していた。
私は酔いも手伝って、なかなか解けず、20分ほどかかってようやく完成。
腕も(脳も)衰えたものである。
ふうっーと大きくため息をついて彼にキューブを返した。
すると彼はまたカチャカチャとシャッフルして僕に渡した。
「もういい」と笑って断った。
思いがけずルービック・キューブを解く羽目になったため、夕食を食いそびれてしまった。
パズルの怖いところはこのようについ没頭してしまうこと。
私は以前パズルに夢中になったせいで、財布の入った鞄を置き引きされたことがある。
次の日、メイン会場のホテルのエレベーターに乗り込むと例のスタンフォード学生に会った。
やはりルービック・キューブを持っている。
彼にこう質問した。
「僕は4種類ほどの動作を使っているだけだけど君は何種類使っているの?」
学生は100種類と答えた。
彼のキューブを拝借してシャッフルし、今度は彼に解いてみてと頼む。
OKと軽く答えるが早いか、キューブを回し始める。
指先の動きが早くて見えない。
彼はエレベーターが地上階に着くまでに解きやがった。
その数日後、会議場でJerry Slocum氏のルービック・キューブ史に関する講演の後、その若者が演台に立った。
コンクールにも出場している現役選手のようである。
彼は解けるキューブと解けないキューブの色配置について語ったあと、実演に入った。
300人の面前で17秒で解いた。
次に彼は目隠しをして解くという。
数分間、キューブを観察した後、彼は目隠しをして解きはじめた。
何かを思い出すように手を止めてはまたシャカシャカと回す。
息を呑むような静寂が会場全体を包む。
どんな格闘技にも勝るはらはらどきどきである。
2分ぐらいかかったろうか、彼はついに解いた。
満場の喝采。
彼の名前はLucas Garronである。
眼の見えない人のためのルービック・キューブはあっていいと思う。
彼らのほうが早く解くかもしれない。
球面を裏返すトポロジカルな変換が盲目の数学者によって発見されたことは有名である。
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